2009年 10月 03日
堕ちた偶像(続)
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《ゲットー》
Dayton, Ohio USA


先日こんなことがあった。
現金が必要になったので、ある銀行の前に設置してあるATM (現金自動支払機) に行ったら、僕の前にいた中国人の老人が途方にくれた顔をして、現金を引き出そうとしたら金が出てこない上に、カードが機械に飲み込まれたまま返ってこない、と言う。銀行のドアには午後五時で閉店と書いてある。時計を見ると五時を数分過ぎていて、ガラス越しに見ると中にはまだ数人の銀行員の姿があった。ドアをノックして行員と話をしてみたら、と僕が言うと、その老人は何度もドアを叩いていたが、中にいる若い女性は音のするほうを見て、もう閉店したというしぐさをするだけでドアを開けようともしなかった。さらに叩き続ける老人に明らかに不機嫌な顔を見せて、その女性がようやくドアを開けてくれた。老人が中国語訛りの強い英語で事情を説明すると、彼女が面倒くさそうに言うには ATM は特定の人しか開くことができなくて、その人は明日の朝にならないと事務所に出てこない。だから明日の朝もう一度出直して来い、と言っている。困惑しきった面持ちの老人が、何とかならないか、自分は今夜どうしてもお金が必要なんだ、カードを返してもらえれば他のマシーンに行くから、と懇願するのを 「何度言えば分かるの? 銀行がもう閉まっているのは、見れば分かるでしょ」 と冷たく言いきってドアを閉めようとした。それを見ていた僕は閉まろうとするドアを押さえて、

「おい、お嬢さん、冗談じゃねえよ。さっきから黙って聞いてりゃあ、客のことを何だと思ってやがんだい? 機械が壊れているのはおめえさん方の責任じゃねえのかい。それなのに、すみませんの一言でも言ったかよ。この人が困ってるのが分かんねえのかい。病気の子供に薬を買わなくちゃならねえのか、ひもじい家族にハンバーガーを食わせるのか理由は知らねえが、このお方はとにかく金が必要なんだ。それも金を貸せとか呉れとか言ってるんじゃねえ、預けてある自分の金を引き出そうとしているだけじゃねえかよ。病気の子供に薬が買えなくて子供が死んだりしたら、おめえら銀行は何ミリオンと損害賠償するんだぜ。俺はこんな銀行明日にでも解約して他の銀行へ行くからな、そう思え。とにかくてめえみたいなチンピラじゃ話にならねえ。店長を呼べ、店長を!」

と、日本語なら寅さんみたいにまくし立てる所だけれど、残念ながら英語ではもう少し知的で穏やかな表現になってしまった。それでも僕の怒りは十分に相手に伝わったようで、その女性がしぶしぶ引っ込んだと思うと今度は課長だか店長だか知らないが中年の男性が出てきた。僕はその上役に同じことを説明した上に、さらに若い女性行員の感心できない態度や銀行としての不満足なカスタマー・サービスを報告すると、彼は 「よござんす、分かりやした旦那。 しばらくお待ちなすって」 と言って腰につけた何十と鍵の付いた鍵束から魔法のようにサッとひとつを取り出して ATM のマシーンを裏から開け、カードを取り出すとそれを老人に返してくれた。(もちろん返す前に老人の免許証を見て本人の確認をしてから) 
そしてさらに 「旦那、うちの若いもんにはくれぐれもよく言って聞かせますんで」 と言ったが、その上役からも 「すみません」 の一言はとうとう最後まで出てこなかった。

ああ、アメリカ (ため息)


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by september30 | 2009-10-03 05:50 | 過ぎて行くこと


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